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新宿の西口には、クリスマスだからといって浮かれている様子を感じない。
いつもと同じ、夜の喧騒。
私は人波にもまれながら、小滝橋通り方面に向かって歩いていた。
通行量の多いこの周辺では、逆方向に向かう人々にぶつかることもよくある。
彼はすかさず察知して、私の腰に手を添えて誘導する。
そして、彼はすぐ私のカラダから手を離す。
こういったことは、渋谷駅を降りて映画館に向かうときにもあった。
だが、昼と様子がすこし違う。
まさか彼は、決めようとしているのではないだろうか―。
「もっと後ろのほうで待とうよ」
小滝橋通りと青梅街道の交差点に着いたとき、飲食店の入ったビルの出入口に私を誘いだした。
ビルには飲み屋や焼肉店が入っている。
「ここのビルのなかにある『六歌仙』って焼肉屋がおいしいんだ。『叙々苑』より高くてうまいよ」
「『叙々苑』行ったことあるの?」
「あるよ」
「高いんでしょ」
「そんなでもないよ」
ああそうだ、このヒトはエリートなんだ。
私は『叙々苑』に行ったことがない。
その途端、彼はカラダを寄せてきた。
まだそんなことは考えてないのに!
私はひとり歩き出し、4メートルくらい離れた場所に立ちい止まって携帯の画面を見る。
聖夜のあまったるい空気に流されるほど、いまの私は甘くない。
信号が青になり、何事もなかったかのように私は彼の元に戻った。

2軒目の店で、彼はカウンター席を指定する。
見た目に反して、このヒトは実にスマートに事を進める。
ここまで鮮やかな手際を見せられた例は、いままでにない。
注文したカクテルが届き、私達はふたたび乾杯する。
「メリークリスマス」
乾杯の声だけは、やる気を感じられなかった。
そこだけは。

「水曜日ね、大野木さん(仮名)にちゃんと断ってきたの」
彼の友達を振ってきたことを報告する。
「そうなんだ」
相槌を打ちながらも
「次は俺だな」
とつぶやく建築士。

(近い将来、私はこのヒトとつきあうようになるだろう)

一緒に音楽を聴き、ミニシアターの映画を観たりしながら、何度となく食事を共にしては互いの悩みや、ふかい部分まで打ち明けあう。
クスリを飲んでいることも過去の経緯も、彼は知っていくのだろう。
とはいえまだ、気持ちの準備はできていない。
内心では少し怖気づいていながら、私は彼との話に時折笑う。
気持ちが解きほぐれていくのを、感じる。
「きれいな手をしてるね」
私の手に自分の手を重ねる彼。
1本1本の指に触れられても心地よく思う日は、そう遠い未来ではないのかも知れない。
次に会う約束をしたのは、当然のこと。
(この流れに身を任せてみよう)
気持ちが和らぎだすのを感じる。
来年も、彼とこの日を過ごしたい。

建築士のカバンの中身が気になったのは、素朴な興味からだった。
「カバンのなか、何入ってるの?」
私の問いに対し、建築士は素直に中身を見せる。
「新聞と、歯磨きセットと・・・」
歯磨きセットを持ち歩く理由を語る彼の声は、私のアタマのなかで空虚に響く。

(嘘でしょ・・・。どうか見間違いであって欲しい)

数秒ほどしか見えなかったその新聞は、ある宗教団体の機関紙のように見えた。
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