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タワーレコードに行きたいとリクエストしたのは私だった。
目的は2つ。
ポイント2倍セールのうちにCDを買いたかったことと、彼の好きな音楽が気になったから。
音楽が好きなヒトはいい。
洋楽も聴くヒトなら、なおさら。
彼は、ワールドミュージックを好む。
ハワイAORや、エリス・レジーナというブラジルの歌手についてやさしく教えてくれた。
ほとんど知らない分野の音楽の話は、興味深い。
映画だけでなく、音楽の趣味も合っているようだ。
彼は迷いつつも何も買わず、私はCDを2枚買って店を出た。
渋谷の街は、イルミネイションがきらきらと光っている。
この日のディナーは、イタリアン。
これも私のリクエスト。
「クリスマスらしいものが食べたい。特にケーキ」
ここ3年クリスマスイヴに働いていた私にとって、それはとても贅沢なことだったのだ。
スパークリングワインで乾杯し、ごちそうを食べ、ケーキでしめる。
そんなイヴが私のあこがれだった。
渋谷から小田急線の代々木八幡に向かって歩く。
「この辺よく来るの?」
「たまにだけどね。好きな服や雑貨の店があるから」
そう答える私は、またも少しだけ嘘をつく。
実のところ、私はこの界隈に割と詳しい。
だけどそんなことは言えまい。
灯りの消えた病院の窓を眺めながら、私は後ろめたい気持ちを覚える。
彼にこのことを話す日は、来るのだろうか。
私の通う病院は、この街にある。
この街を母以外の誰かと歩くのは、初めてのことだった。

店に入り、私はコートを脱いだ。
コートの下は、黒いVネックのカーディガン。
今年流行の短い丈で、首元には白いファーがついている。
ニットのインには赤いニットキャミソール。
胸元には、ベロアのリボン。
茶色のツイードのタイトスカートの足元は黒いロングブーツ。
「(今日の服)いいね」
大成功。
私は微笑み、心の中でやったとつぶやく。
この日、誰かと過ごすことを想定して買ったキャミとカーデを買ってよかったと安堵する。
「メリークリスマス」
私は小声で、彼は聞こえるか聞こえないかというくらいの小声で乾杯した。
(もうちょっと聞こえるような声で言って欲しかったな)
グラスの中の泡のようにすぐ消える程度の不満を持ちながら、私はスパークリングワインに口をつける。
お酒の入った私と彼は饒舌になった。
私たちはクリスマスコースに舌鼓を打ちながら、互いの身の回りの話で盛り上がった。
面白いけど、疲れない。
よく見れば、ルックスだって悪過ぎる訳ではない。
好感が確信に変わろうとしているのを感じる。
「もう1軒行こうか。時間大丈夫?」
彼の誘いにあっさり乗り、建築士と私は小田急線で新宿に向かった。
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