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2007.03.26 1年後
年齢を重ねると時間があっという間に経つとよく聞く。
学校、仕事、趣味のゴスペル。
これだけでも精一杯なのに、それらをこなすバイタリティはどこから生み出されるのだろう。
当の本人でさえ、驚いてしまう。
なおかつ私にはもう1つ、日常がある。
今日、つきあいはじめて1年が経った。
気がついたら1年が経っていたというだけなのに、なぜか感慨ぶかく感じる私がいる。
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あいつが自らの破局を綴ったブログを更新した日、私は彼と過ごしていた。
前日から高校サッカーを観戦し、彼の友人達に紹介された後、池袋にあるホテルに泊まり、飯田橋の東京大神宮に初詣に行った日のことだった。
昨年5月の新潟旅行以来、男女の関係をもち始めた私達にとって、それは自然な展開だった。
私と彼のカラダの相性はすこぶる良く、彼は自分が果てたあとでも私を愛撫するようなやさしさも持ちあわせていた。
私は、彼の腕のなかで眠ることに慣れた。
それを幸福だと思っていた。

初詣を済ませお腹を空かせた私達は、池袋に戻った。
入ったお店は瀟洒な和風ダイニング。
カウンター席には私達の他に2組の客がいた。
1組はちょいワルオヤジと20代女性の2人組。
もう1組は、30代の女性の1人客だった。
白ワインのボトルを空けながら男性は女性に自分の持っている知識を披瀝する。
ちょいワルオヤジに対し、女性は感嘆しながら耳を傾けている。
「あの2人はどういう関係なんだろう。カップルなのかなあ」
「いや、これから(男性が女性を)落とそうとしてるんだよ」
2人の仲について小声で語り合う彼と私。
日本酒と料理に舌鼓を打ちながら1人の時間を満喫する仕事帰りとおぼしき女性は、気さくな口調でスタッフに次のオーダーをする。
「かっこいぃ~!おとなの女性って感じだよね」
女性にみとれる私に対し、同調する彼。
こんなくだらない会話を続けながら、私達はオーダーしたものを次々と口に運ぶ。

キャリアウーマン風の女性1人客の存在に刺激されたからだろうか。
「そういえば随分まえに飲み会で会った女のヒトがいるんだけどね・・・」
私は口を開く。
「そのヒトね、ものすごい飲んでたの。聞いてみるとふられたばっかだったんだって」
彼は黙って耳を傾ける。
「そのヒトね、長いあいだ『友達以上恋人未満』って感じだった男のヒトがいたんだけどね、ようやく自分の気持ちに気づいて彼と気持ちを確かめあったんだ。男のヒトもその女のヒトのことはいいと思っていたみたい。だけどね、男のヒトは他のヒトを選んでそのヒトの住む地方に移り住んで同棲し始めちゃったの。以来、その女のヒトは飲まずにはいられなくなっちゃったんだって」
私はぽつりぽつりと話す。
言葉を選び、ゆっくりと自身の過去について話す。
「その男のヒトね、過去につき合っていたヒトを阪神大震災で亡くしたことがあって、以来好きなヒトができたらかならずもう1人をキープすることで保険をかけるようになっちゃったの。私、その女のヒトの話でしかわからないことだけど、ものすごく許せない!って思っちゃった。その男のヒト、確かにかわいそうだと思うけど、結局はそんな自分に甘えてるじゃん。乗り越えようとしてないじゃん」
ひと呼吸おき、彼に問う。
「そういうヒトってどう思う?徹也だったらそういうヒトがいたら友達になれる?」
「なれないな」
彼は断言する。
「かわいそうだとは思うけど、友達にはなりたくない」
そんな彼に対し、私はもう少し踏み込んでいく。
「もしそういうヒトが友達の中でいたらどうする?」
「連絡があったら一応返すけど、自分から連絡を取ろうとは思わないな」
内心私はほっとした。
このヒトとあいつは異質のキャラクターの持ち主なのだ!
彼ならきっと私を置いてどこかに行かないだろう。
結婚―。
私の人生にありえなかった展開を意識し始める。


時は過ぎ、後期試験と幼稚園実習を終えた私は、無事進級が決まった。
産休代替で働いている保育園での勤務も、今日を入れてあと7日。
4月からの勤務先は既に決まっている。
隣の市にある保育園だ。
時給は大幅に下がるが、社会保険完備なのはうれしかった。
なにより自宅から30分で通えるのが魅力だ。
来年度という当座の未来は決まっていた。
彼とのつき合いも順調だった。
先週の土日には山中湖と御殿場プレミアムアウトレットへの小旅行に出かけた。
日帰り温泉に浸かり、コンドミニアムで手料理を振る舞い、買い物を楽しんだ。
彼と過ごしはじめて1年が経とうとしている今日、あいつが東京に帰ってくる。
だいじょうぶ、私には彼がいる。
すこしこわばりながら、自分に言い聞かせている私がいる。
2007.03.21 Birthday Present
2月3日、私は29歳になった。
実習期間中だったが、幸いにもその日は土曜日だった。
彼は私のためにお台場のホテルを予約してくれていた。
彼が宿を予約してくれたのは、これで3度目になる。
1度目は新潟。
2度目はクリスマスイヴ。
この日は日航東京に泊まったんだった。
夜景の綺麗な部屋で、シャンパンを飲んだ。
ユメのようなクリスマスだった。
しかし、あまりにも高すぎる宿泊料金を聞き、私は彼の財政事情を本気で心配してしまった。
そんな私の心配を察してか、チェックインを終えたあと、安心させるように宿泊料金の領収書を見せる。
さいわい4ケタだ。
とはいえ旅行時以外のホテル代は、すべて彼の支払いになるのだけど。

「そういえばさ、私なんでココにいるんだっけ?」
シャワーを浴びた後、ベッドに横たわりながら、私は誰に聞くでもないように疑問を口にする。
すると彼は
「横向いて」
と指示をした。
顔だけ壁のある右側を向き、あおむけになった姿勢の私は私は、ちらりと彼の様子を覗いてみる。
「目を閉じて」
ばれてしまった。
私はとっさに目を閉じる。
体勢の変わらない私に対し、彼は
「腕を出して」
と言う。
「右?左?どっち?」
どちらの腕を出すのかと尋ねる私に対し
「左でしょう」
そう言って私の手を取る。
ディリンディリ~ンといったBGMが彼のくちびるから流れる。
それはまったくロマンチックさを持ち合わせていない。
だけど、そこが彼らしい。
指の付け根に金属の冷たい感触が帯びてくる。
「いいよ」
目を開けて自分の手を見たら、指輪がはまっていた。
「シンプルなシルバーリングがいいな」
というリクエストは全く反映されておらず、ダイヤとおぼしき石と、それよりも小さなピンクと水色の宝石がきらきらと光っている。
自分では選ばないあろうかわいらしいデザインだ。
「うれしい・・・」
私は素直な感情を口にし、彼の顔を見つめる。
彼は
(気に入ってもらえてよかった)
という顔をしている。
「指輪ってどっちの指にすればいいんだろ」
「やっぱ左手でしょう」
3色の宝石は、私の左手薬指でまばゆいくらいに輝いていた。

誕生日プレゼントに指輪が欲しいと言ったのは、私だった。
これで私は、彼の彼女でいるという事実を人々に晒すことができる。
愛されている女の持つ優越感を、いつの間にか持つようになっていた。
私はしあわせだ。
私は、彼の首に両腕をまわす。
2007.01.31 衝撃(2)
以前ブログで触れたが、あいつはmixiをやっている。
mixiユーザーの私は、あいつのIDをアクセスブロックしている。
そうまでしないと、お互いの現状を探り合ってしまいそうだった。
堕ちた私を見せたところで、あいつは私を選ばない。
私はそれを知っていた。
あいつが私の前から消えたように、私もあいつの前から徹底的に消え去る。
そうでもしないと自分を保つことができなかった。
私とあいつは、もう二度と会ってはならなかったのだ。

そんななか、私はCに悪魔の指令を出す。
「ねえ、あいつのmixi見てみてよ。日記とかに最近のこととか書いてないか知りたいの」
私が知りたかったことはただひとつ。
Cは忠実にあいつのプロフを検索し、お気に入りに保存する。
「結構マメに更新してるみたいだよ」
と知らせながら、核心に迫っていくC。
「いまは札幌にはいないみたいだよ。いまの仕事の段落をつけて3月に東京に戻るみたい」
「そうなの、あいつ、帰ってくるの…」
茫然とした口調で事実を繰り返す私。
北海道に住んでいる女性と別れたあいつが、実家のある東京に戻ってくることは何ら不思議ではないことだった。
「やっぱり・・・。帰ってくるんだ。あいつ、帰ってくるんだ。帰ってくるんだ・・・」
表情のない顔で、私はなおも同じ言葉を繰り返す。
私は狂ってしまいかねないだろう。
そう察知したのかCは、私を現実へと引き戻す。
「(あいつは)もしかしたらOO(私の本名)にパソコンのメールなり携帯なりに連絡してくるかもしれない。着拒やメールを受け取らない設定にしておいたほうがいいと思うよ」
「そうだよね」
Cとの電話中PCをいじりながら、あいつのメールが届かない設定になっていることを確認した。

私はいまだにあいつとの共通の友人達と月イチ位で飲んでいる。
友人達を通じて私の現状を探る可能性は、ないとはいえなかった。
つきあった女性とは、別れても連絡を取りたがる彼のことである。
彼にとって唯一の例外であろう私に関しては、気になるのではないだろうか。
だからこそ私は予防線を張っている。
あいつの共通の友人たちには、必要以上にいまの彼のことでのろけ、円満ぶりをアピールしていた。
でないと自分がみじめだ。
友人達にあいつから連絡が来ても、私にはつきあっている彼がいることを知れば、あいつだって手出しはできないだろう。
私は前に使っていた携帯を取り出し、いま使っている携帯にあいつのメモリを赤外線で送った。
女性の名前にすげ変えた電話番号を、着信拒否の対象として登録した。
私はあと3日で、29歳になる。
2007.01.29 衝撃(1)
おそれていたことが、やって来ようとしてきている。
それはかつて起こって欲しかった「奇跡」だった。
けれどもいまは違う。
なおも私は、過去に苦しめられなければならないのだろうか。


試験中の上に幼稚園での責任実習を控えた私は、現実から逃げるかのようにPCでのネットサーフィンにハマっていた。
かるい気持ちでアクセスしたブログ。
そこに書いてあった内容は、私を瞠目させるにあまりあるものだった。

あいつが、彼女と別れた―。

事実を淡々と綴っただけの記事を読み終えた途端、笑いがこみ上げてくる。

(勝った…!)

自分でも気味がわるくなるくらいの高笑い。
ハイになっているのがわかる。

(ざまあみろ)

あいつが迎えた恋愛の終焉に、私はいまのしあわせを思う。
止まらない笑いを押さえようとせず、私は携帯を手にする。
電話の相手は親友のC。
とくに力になってくれた友達の1人だ。
「あっ、もしもし」
うかれた口調で事の次第を喋る私と一緒にCも笑う。
「あはっはっはっはっはっはっ…いままでのことは決して無駄じゃなかったよねえ」
いつもより2トーン高い笑い声の混じった喋りの私に対し、は同調する。
「よかったじゃない。もしあいつと○○(私の本名)がつき合ってたとしたら、今回みたいにうまくいかなかったと思うよ。まわり道をしたけど、徹也さんに出会えた訳でしょ」
「そうよ、徹也は私のことをとても大事にしてくれるわ。こんな訳アリな女でもいいって言ってくれたんだからね。それに、こんな見方はよくないかも知れないけど、徹也は中学から私立だし、6大学出身だし、東証一部上場企業で働いてるわ」
30過ぎても根無し草なあいつとは違ってね―。
と、ココロのなかでつけ足す。
毒づきながら、軽蔑をこめて。
「ねえ、あたしのいままでって、決してむだじゃなかったよねえ。お酒ばっかり飲んで、あいつを忘れるために出会いさがしまくって、生理だって狂ったり、体重だってふえたりへったりしながらさあ」
「そうだよ」
ジャンキーのように一方的にまくし立てる私にCは同調する。
「あの頃の辛さは決して無駄じゃなかったことが証明されたよ。その結果、徹也さんと出会えた訳でしょ。いい選択をしたと思うよ」
「そうよ、徹也は今週末に私の誕生日を祝ってくれるの。そのためにレストランまで予約してくれたんだから」
29歳になるその日、彼は私のリクエストに答えてフレンチかイタリアンのお店を予約した。
その時の私の頭には、建築士と過ごした去年の誕生日のことは一切なかった。
彼は知らないが、建築士は身代わりに過ぎないのだ。
当然ながら、建築士もそのことは知らない。
そして彼もかつてはふられた男の身代わりだった。
彼もまた、それを知らないままでいる。

ようやく落ち着きを取り戻した私は、Cにひとつの頼みごとをする。
「ねえ、ちょっと調べて欲しいことがあるんだけど…」
それは、条件を満たした第三者でないとできないことだった。
日差しが出てきた空に感謝しつつ、えんじ色の浴衣に白い帯を結んで千駄ヶ谷まで向かう。
電車を降りようとすると、ホームには携帯を手にした彼がいる。
彼の目の前で電車を降りる。
こんなことがあるんだな。
お互い不思議に感じながら。

チケットを取ってある軟式球場に向かうと、思いのほか簡単に場所をとることができた。
軟式球場は入場料1000円で、配布されたシートを敷いて観る全自由席方式だ。
小さくて薄いシートを広げ、私達は食料やビールを調達しに行く。
神宮花火を観るのは8年ぶりだった。
昔働いていた会社からタダでチケットをもらえてお客さんと行ったとき以来だ。
花火はやはり、敷物を敷いて座って観るのがいい。
アルコールが入った私は、彼に抱きついて寄り添う。
あやすように背中に手を添える彼。
なんて寛容な男性なのだろう。
新潟旅行以来、私は彼にべったりとあまえることをおぼえた。
相手が誰であれ、ほんとうはずっとこうしたかったのだ―。
彼の胸に頭をもたれる私を分析するもう1人の冷静な私がいる。

勢いよく打ちあがる花火は綺麗で、迫力があった。
さいわいにも私達が座った席は真正面から花火を観ることができて、ふたりでこの場所を選んだことを喜んだ。
私と彼は、性質面で共通点が多い。
決して器用ではなく、友達からはつっこまれてばかり。
ケンカなどの争いごとはあまり好きではない。
ちょうど同じことを考えていたことは割とよくある。
経緯はどうあれ、結ばれるべくして結ばれたのではないか。
たまにそんなことを思った。
空に舞い上がっては一瞬だけ光を放つ数々の花火の下、左側にいる彼の肩に頭をのせる。
あらためて去年の6月のバックナンバーを読み返してみる。
思い出されるのは、灰色の空とむわっとした空気。
どんなにおいしいものを食べても味が感じられないのに、ピストン輸送するかのようにお酒で食べものを流し込む。
毎日毎晩、充電が切れるまで誰かしらに電話をして話す日々。
私はつねに、なにかを詰め込んでいたかったのだ。
ぼっかりと時間が空いてしまうことを避けてこと。
それが自分を保つ方法だった。
私の精神が不安定なこととその理由を、家族に悟られないために。
そして、自分自身が再び崩れないように。
たとえ私が壊れても、あいつは戻ってきやしない。
戻ってきたとしても、私はきっと拒絶する。
一度男女の関係を結んで互いの気持ちを知った私とあいつは、もう以前のようにつきあうことはできない。

「保育者は、自らが幸福でなければならない」
保育原理の授業で講師がそんなことを話していた。
だとしたら今、私は幸せか?
自分自身に問いただしてみる。
答えはyes。
多少の不満は差し引いても、私は幸せ者なのだ。
やりたいことができる。
友達は男女問わずたくさんいて、困ったときには支えあえる。
そして、彼がいる。
一度は冷めたあげく他の男達と天秤にかけたが、そんな卑怯な私を彼は受け入れてくれた。
今までのすべてをやり直すかのように少しづつ、着実に、彼との関係を築いていった。
そして、私自身も恋に落ちた。
いまなら断言できる。
彼が私を愛するように、私も彼を愛している。

今日、ブログをつけ始めてちょうど1年が経った。
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